
日本食材や和酒、調理器具など1万点以上を品揃え 米国における日本食レストランの強力な味方
2025/03/12
<目次>
人気の日本食材から和包丁・和食器まで幅広い品揃え
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「今ロサンゼルスに住んでいますが、週に3、4回も日本食レストランに通っているアメリカ人を見かけますよ。私より日本食を口にしているかもしれません。面白いことに日本食レストランは1年の中でも“母の日”が、ファミリーの来客が増えて一番盛り上がるんです。特別な日だからこそ特別な食事で思い出を作りたいということでしょうね」
20年以上もアメリカのビジネスに携わり、現地の事情に精通しているミューチャルトレーディング(以下、MTC)社長の大畑正敏はそう語る。
MTC大畑社長農林水産省「海外における日本食レストランの調査結果(2023年)」によれば、その数は北米で約2万8,600店に達し、全世界では21年から2割増加する勢いだ。
北米における日本食の普及を裏側で支えてきた企業のひとつが宝酒造インターナショナルグループのMTCである。同社は1926年創業で100年近くに渡り、日本食レストランなどに対して日本食材や酒類・調理器具・食器・酒器に至るまで日本食の関連商品を提供する専門商社としての地位を築いてきた。
MTCはロサンゼルスに本社を置き、北米で2024年までに13拠点を展開している。25年にはテキサス州のヒューストンとシアトルに拠点を開設し、15拠点に拡充する予定だ。
MTCの米国拠点地図(赤は25年新規開設)MTCは日本食レストランを運営するために必要なあらゆるものを品揃えしている。コメ・調味料はもとより、魚介類、和牛などの肉類、ラーメン・海苔などの加工品、日本酒・ビール・焼酎などの酒類、和包丁をはじめとした調理器具、和食器・酒器・容器、さらには軒下に下げる赤提灯や店内に飾る招き猫の置物まで品揃えは1万アイテムを超える。ヴィーガンやアレルギー対応の食品にまで対応している。その上、レストランを開店・運営するアドバイスも行うのだから、レストランオーナーにとってはまさにとっておきの味方である。
酒類は宝酒造が製造している「松竹梅」「宝焼酎」「タカラ本みりん」やTakara Sake USA Inc.(以下、米国宝酒造)が現地生産した商品を扱っている他、「和酒の多様な素晴らしさを世界に広げたい」との思いから、日本の各蔵元の銘柄も扱っている。日本酒では130蔵1,000アイテム以上、焼酎では30蔵130アイテムという充実ぶりで、多数の有名銘柄を取り扱っており、米国での和酒の売り上げはNo.1である。さらにビールも、日本の大手メーカーはもちろん、地ビールも多く品揃えしており、酒類の販売には強みを持っている。
MTCが取り扱う酒類の一部非食品分野では、その道の専門家がおり、日本国内の道具・器具メーカーや職人とMTCをつなぐ役割を果たしている。
「宝グループは、日本の食文化を世界に浸透させることを目指しており、消費者に最も近い日本食レストランとの関係構築を重視してきました。その中で、お客様が必要とする調理器具や食器類の品揃えも充実させてきたのです。今では、日本の包丁に加えて、シェイカーをはじめとするバーテンダーツールが、その機能性やデザイン性の高さから、日本食以外のプロフェッショナルにも高く評価されています。」(大畑社長)
MTCが取り扱う包丁
顧客店舗を定期的に訪問
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「当社はレストラン向けが強いですが、スーパーなどの小売店ともお取引しており、合わせて約1万2000店とビジネスをしています。豊富で品質の高い品揃えと、きめ細かな営業、配送サービスが、お客様から評価いただいています」と大畑社長は自信を持って語る。
鮮魚や肉類をどう活かすかはシェフの腕前であり、その支援を行うのがMTCの営業だ。
「当社は日本食に関する豊富な情報を有していますので、その強みを活かし、トレンドセッター(流行の仕掛け人)になりたいと思っています。そのためには営業が定期的にお客様を訪問して、お話や要望を聞き、店内の様子を見て回ります。客層の変化やお客様との何気ない会話から潜在ニーズを感じ取り、新しい食材やメニューなどの提案を行います」(大畑社長)
ウェブやモバイルを活用した注文の受け付けも行っているが、実際に訪問しないと新しい発想は生まれにくいし、顧客のニーズを掘り下げることが必要だ。
「対面で情報交換することで、お客様も実際に食材を見たり、試食することでその良さは伝わるため、当社の“顔を出す営業”は歓迎されている」(大畑社長)という。
MTCセールスによる日本食レストランへの訪問・提案営業
営業を通じた“食”と“酒”のセットでの提案
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調味料などとは異なり、酒類は嗜好品であり、“食”と“酒”をセットで広げていかないと普及していかないという難しさがある。そのためMTCでは、日本酒や焼酎のスペシャリストの育成に力をいれ、“食”に合わせて“酒”をセットで提案する活動に注力している。
2010年に開校した「Sake School of America」は、日本酒だけでなく、焼酎やリキュールなど日本のアルコール飲料全般を学ぶため、日本の酒類研究機関やワインの教育機関とも連携し、クラスを開講している。MTCの社員もこのクラスを受講しており、アメリカの民間団体が主催する和酒に関する「サケ・アドバイザー」をはじめ、様々な資格を取得している。これ以外にも、宝酒造を含めた日本での酒蔵研修や、グループ会社である米国宝酒造の見学などもおこなっている。
Sake School of Americaの講座の様子現地の得意先と一緒に“食”とともに “酒”を実体験していただく機会をつくってきたこともあり、MTCはレストランに対しての強みがある。「日本酒はワインと同じで、銘柄ごとにいろいろな味やタイプがあります。営業はその知識を活かして、お客様の要望や食材に合ったお酒をご提案しており、お客様からも喜ばれています。」と大畑社長は語る。
4タイプの保管倉庫で、食材の鮮度を追求
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食材も和酒も鮮度が大切だ。保管や配送で鮮度が落ちては元も子もない。そのため、MTCでは常温、冷蔵、冷凍、超冷凍という4タイプの保管倉庫を各拠点に設置、徹底した温度管理を行っている。
例えば、日本から輸入する酒類は冷蔵コンテナで運び、冷蔵倉庫で保管、冷蔵トラックで配送するので、日本国内と遜色のない品質管理ができている。
また、鮮度の高い食材を提供するために、魚介類などもマイナス60度での超低温における 冷凍 保管もしている。超冷凍により、魚のうまみが逃げにくく酸化しにくいなどの差異化が図れ、品質の高い魚を米国市場に提供することができる。
それらを、温度帯管理ができるトラックで配送し、鮮度を保持したまま、お客様のもとに配送している。
また、2024年には、東京豊洲市場にある、鮮魚仲卸業者である築地太田と、同社の輸出業務を担うオータフーズマーケット社の2社をグループに迎え入れた。海外における日本食の中で、寿司の人気は根強く、日本産の鮮魚を取り扱うような高級寿司も続々と増えているなか、ジャパンブランドの高品質な日本産の鮮魚を取り扱うことで、ニーズへ対応できる。
MTCが配送に使用する温度帯管理ができるトラックさらに、原材料や製法によってはアメリカの基準に合わないことや、発注ロットや賞味期限の関係で輸入できないこともあるが、特注品についても可能な範囲で応えている。
その結果、MTCだけが扱っている商品も数多い。例えば、最近人気が広がっている和牛もお客様それぞれに求める部位やカット方法が異なることがあり、日本国内とは異なる特別スペックの商品を開発し対応している。
日本食・和酒を通じて日本文化を普及
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「アメリカでは『日本食を食べるときにはSAKEを』という消費者も多いのですが、少しずつですが、タイ料理レストランや、アメリカン・キュイジーヌ、中華料理など日本食以外のレストランや小売店でも和酒の取り扱いが増えています。日本酒は幅広い料理との相性がよく、さらに大きく広がる可能性を持っています。
当社では多くの人気銘柄を取り揃えるとともに、その商品と蔵元の酒造りの特長や、地域の背景、日本酒の文化についてもお客様に伝えていきたいと思います」(大畑社長)
日本食文化とともに、日本文化自体も少しずつアメリカ社会に浸透しつつある。そのためMTCでは、食だけでなく「自然や人々への感謝の気持ち」「おもてなしの心」など日本文化そのものも含めた食の提案を世界の人々に伝えることを企業使命としている。文化は混じり合い、発展し、多様化するものである。
「いまは想像もできないような日本食文化の広がりが何世代も続いていくことを考えると、終わりのないことのように思います」と大畑社長。今後、海外の現地ニーズと融合していくことで、日本食文化がどう変化し、発展するのかが楽しみだ。