2025.12.19
能登半島では2024年1月に最大震度7の大地震が発生しました。建物の崩壊や津波に襲われた能登半島では、道路やライフラインに深刻な被害が生じ、現在も多くの人が仮設住宅で生活を続けています。さらに、人々の生活に甚大な影響を与えただけでなく、自然環境も大きく変化しました。上野さんは、この地震をきっかけに、石川県の現在の生物多様性を把握し、希少種を守ることを目的とした「NPO法人いしかわ生物多様性ネットワーク」を2024年6月に設立しました。
ここではその活動や調査内容の一部をご紹介します。
主な活動内容
| ①石川県の「生きもの版 住民台帳」をつくる |
| ②絶滅可能性のあるリスト「レッドデータブック」作成の支援 |
| ③里山や里海の保全・再生などに取り組み、自然環境を育む |
| ④生きものや自然環境保全に係る学習会やイベントを開催することによる環境教育の推進 |
| ⑤行政・研究機関・民間企業・個人などをつなぎ、ネットワークを創る |
トキ放鳥モデル地区を調査
能登半島は本州最後の野生トキの生息地域で、トキを「生物多様性」と「里山里海」の保全のシンボルとして様々な取り組みを進めてきました。石川県は「トキ放鳥推進モデル地区」を設定し、地区内での環境保全型の農業を支援しています。そのモデル地区の一つである志賀町尊保地区を訪ね、田んぼや川にいた昆虫たちを子供たちとともに観察しました。トキの餌でもあるゲンゴロウやカエルに子供たちは興味津々でした。人の手が入り整備された尊保地区はとても美しく、伝統的な里山の景観を見ることができました。
昆虫観察
尊保地区の景観
土砂災害の崖を訪問
続いて向かったのは、輪島市門前町琴ヶ浜。到着してすぐに、山が大きく崩れている様子が目に入りました。能登半島は日本最大級の珪藻土の産地で、古くから七輪が生産されており、最近では珪藻土入りの土壁やバスマットとしても利用されています。土砂崩れしている山のすぐ近くに、珪藻土でできた岩があり、実際に触ってみると僅かな力でも簡単に欠けました。能登半島は、珪藻土を含む地層が広く分布しているため、地震や豪雨による土砂災害の原因の一つとされています。
大きく土砂崩れした崖
珪藻土でできた岩、触るとすぐに崩れてしまいます
隆起した漁港と岩礁海岸の生きもの観察
琴ヶ浜を後にし、すぐ近くの黒島地区に向かいました。ここは、地震の原因でもあるプレートのずれによって隆起した漁港で、水面が2~3m低下しています。壁面の白く色が変わっているところが、地震前に海中だったところで、今では草が生えています。壁面をよく見ると、貝殻がたくさん付着していました。これは突然の隆起(海面低下)によって身動きがとれず、生息場所を移ることができなかったためです。急な環境変化に対応できなかった底生動物がたくさんいたことも確認されています*1。
*1 のと海洋ふれあいセンターより
隆起した漁港の壁面
震災前に海面下だった壁面についている貝殻
最後に訪れたのは、同じく門前町の鹿磯海岸。能登半島地震では志賀町から珠州市にかけて約85km区間で地盤隆起が確認されており、この鹿磯海岸が最大で4m隆起したとされています。平らになっている場所は、以前岩ノリ畑だったところで隆起によって波が届かなくなり、干上がってしまったそうです。さらに奥に進むと、先ほど見学した漁港と同じく、白くなっている岩肌がありました。海底には石灰藻という炭酸カルシウムを体内に沈着させる海藻類が生育していましたが、海面低下によって海藻が乾燥したことにより白く現れてきました。これは本来海底だったことの現れですが、黒島地区の漁港の隆起と同じく、海面低下が海洋生物の生息地域に大きく影響したことがうかがえます。いしかわ生物多様性ネットワークでは、今後の生物の回復状況を把握するために、大学や研究所と連携しながら隆起した海岸のモニタリング調査やドローンでの撮影を実施しています。
干上がった岩ノリ畑
海面低下により白くなった岩肌
能登半島被災地の現状調査に参加して
今回の調査は、市民の方も含めおよそ60名の方が参加しました。子どもたちも多く参加していて、熱心に生きものや貝殻を観察している様子が印象的でした。いしかわ生物多様性ネットワークの活動内容のひとつに、今回のような「生きものや自然環境を大切にする教育」があります。子どものうちから自然に触れ、学ぶことで、生物多様性の保全に関する活動に取り組むきっかけになるのではないかなと感じました。
また、見学の際には専門の講師の方から当時の様子や何が原因で海岸が隆起したかなどを丁寧に教えていただきました。テレビやネットなどの画面からではわからない情報を実際の現場で見聞きすることで学ぶことも多くありました。まずは現状を把握し、その情報を風化させずに広く伝えていくことが、生物多様性の回復の一助になることを期待しています。








いしかわ生物多様性ネットワークでは、能登の里山里海の調査やトキの野生復帰支援に取り組んでいます。その取り組みの一環とし「能登半島における市民参加型の生物多様性モニタリング」プロジェクトでは、能登半島被災地の現状調査を行っており、今回その調査に参加し、活動の様子を取材しました。