サステナビリティ
SUSTAINABILITY
田んぼの学校
生物多様性がなぜ大切なの?
体験田んぼは京都府南丹市園部町仁江にあります。
仁江の里山には、水田・ため池・雑木林など、今では希少な「里山生態系」が残されています。そんな仁江の中でも体験田んぼは特別な場所。すぐ上の雑木林やため池から入る水は豊かな栄養分を田んぼへ運んでいます。減農薬の田んぼは多くの生きものを育み、生きものたちはイネを育ててくれます。
田んぼの中は、まるで自然の博物館のようなものです。ミジンコやカイエビ、タイコウチ、シュレーゲルアオガエル、モリアオガエルなどが共に暮らしている場所です。
春 編
春になると、田んぼのすぐ裏にある雑木林から、栄養分がいっぱいの水が入ってきます。
その水で、田んぼの土の中で眠っていた生きものたちが活発に活動をはじめます。
シュレーゲルアオガエル
シュレーゲルアオガエル
目のまわりが金色で「コロロ、コロロ…」と軽やかな声で鳴き「田んぼの貴公子」とも呼ばれている。
洋風の名前ですが日本の固有種です。
ホウネンエビ
ホウネンエビ
ホウネンエビは背泳ぎが得意です。
多い年はお米がいっぱい実り豊作(ほうさく)になると言われ、名前の由来になっています。とても縁起の良い生きものです。
仁江の里山 田んぼの生物多様性
生物多様性には、①「生態系の多様性」 ②「種の多様性」 ③「遺伝子の多様性」の3つのレベルの多様性があります。
初夏編
田んぼのイネはグングンと大きくなり、お米(種子)をつくる準備に入ります。
さまざまな草花や虫など、生きものたちは活発に動き回ります。
仁江の里山で、生きるための小さな命のリレーが繰り広げられます。
モリアオガエルの卵塊
モリアオガエルの卵塊
メスは卵を産みつける泡を作るため、木に登る前にお腹の中に水を貯めておく。
6月の後半になると枝にある卵塊から下の水面へ次々とオタマジャクシが落ちていきます。
アザミの花とハチ
アザミの花とハチ
アザミの花は小さな花の集まりです。
虫が花の先に触れると白い花粉が出て、虫の体にくっついて他の花へ運ばれていきます。その後、めしべが育ち別のアザミの花粉で受粉します。
仁江の里山にある生態系には、さまざまな種類の生きものが生きています。
これは②「種」の多様性と呼ばれています。日本国内には約13万種(動物が約10万種、植物が1万種、菌類は1万3,000種、他7,000種)が生きていると言われ、世界的にも生物多様性の高い国です。
(『環境年表2023-2024』国立天文台/丸善書店)
シオカラトンボ(トンボ科)
トンボの仲間たちは、田んぼのイネの上を飛び回り、イネを食べにやってくる虫を食べてくれるため、昔から“田んぼの守り神”と呼ばれています。
イトトンボ(イトトンボ科)
生息する環境の悪化に対して適応力が弱く、数が減っている仲間もいます。他の多くのトンボの仲間たちは、4枚のハネを広げて止まるが、イトトンボの仲間はピタッとくっ付けて止まる。
コガネグモ(コガネグモ科)
水路や畦の上に網を張り、虫を捕らえます。
田んぼにやってくる虫を食べてくれるため、トンボと共に「田んぼの守り神」と呼ばれています。
ミズカマキリ(タイコウチ科)
水面に落ちた虫やオタマジャクシなどの体液を吸い取り、水の中で狩りをします。この時、カマを垂直に立てて待ち伏せする姿から“ミズカマキリ”と呼ばれています。
水中で越冬するため、冬でも水がある場所が必要です。
ガムシ(ガムシ科)
水田など水深の浅い場所で、水草に覆われた下を好んで棲んでいる。植物や動物の死がいなどを強いアゴでかじり取り、アゴの先から消化液を出して吸い取る。触覚から空気を取り入れ、胸の下の細かい毛の中に貯めている。
マツモムシ(マツモムシ科)
水面に張り付くようにお腹を上にして泳ぐため、英名ではバックスイマーと名付けられている。口の先で突き刺し、強い毒で大型の虫なども獲物にする。大きな複眼で水中の獲物を素早く見つけていく、とても攻撃的な水生昆虫。
タイコウチ(タイコウチ科)
左右の前脚を交互に持ち上げて歩く姿が、太鼓を打つように見えることから、この呼び名が付いている。畦など土の中に卵を産むため、水田などの水際の自然環境の変化に敏感。護岸がコンクリートなどになると生きていけなくる。水中の泥の中で越冬するため冬でも水のある場所が必要。
オタマジャクシ(カエルの幼生)
水中でエラ呼吸と皮膚呼吸をして育っていく。後ろ足が先に出て、そのあと前足が出てくる。カエルになって陸上に上がると肺と皮膚で呼吸する。
アカハライモリ(イモリ科)
お腹側が赤いのは“警告色”と呼ばれ、相手に毒を持っていることを知らせる役目を持っている。手で触ったあと、そのまま目をこすったりしないようにしましょう。
イチョウウキゴケ(ウキゴケ科)
イチョウの葉っぱに似た形で胞子で増えるコケの仲間。冬には田んぼに水が無くなり、ため池や沼などが埋め立てられ、生息場所が減少している。
体験田んぼとコンクリート田んぼとのちがい
生物多様性を支える柱の二つ目は、②「種」の多様性です。私たちは他のさまざまな生きものたちから、食料をはじめ暮らしを根本から支えてもらっています。
一方、私たちの活動は、生きものたちの生きていく場所や環境を奪い、多くの「種」が絶滅しています。ため池や湿地も埋め立てられ住宅地になっています。水のある田んぼや土の畦は、今では数少ない生息地です。
タイコウチなどの水生昆虫も、水の中で餌を得ていますが、畦の土の中へ子孫を残すため、卵を産み、冬になると水中の泥の中で冬を越すため、冬でも水のある所へ移動します。しかし、畦や水路がコンクリートになると行き来できなくなり死んでいきます。
さまざまな「種」の生きものが生きていくためには、その生きもののライフスタイルに合った多様な生態系が必要です。仁江の里山の田んぼは「種」の多様性が育まれている場所のひとつです。
秋編
体験田んぼでは、たくさんの生きものたちの「食べたり、食べられたり」「守ったり、守られたり」など「小さな命のリレー」でイネが立派に実りました。生きものたちの大半は、田んぼに水が無くなる前に、一年中水のある水路や「生きもの田んぼ」に引っ越しました。来年、再び田んぼに水が入る田植えの頃には戻って来てくれます。
カヤネズミ
カヤネズミ
今年の秋、とても嬉しい出来事がありました。カヤネズミの巣が二つ見つかりました。ソフトボールくらいの丸い巣が畦の枯れ草などでイネの穂先に作られています。ひとつは休息用のものかもしれません。大人の親指くらいの大きさで、日本で最も小さいネズミです。昨年から農薬を思い切って少なくした効果があったのかもしれません。以前は、農村には普通にあった「茅原(かやはら)」も今ではほとんど無くなり、田んぼは、巣をつくり子どもを育てるカヤネズミの生活にとって、とても大切な場所になっています。
ハグロトンボ
ハグロトンボ
ハグロトンボ(カワトンボ科)は、羽を開いたり閉じたりする様子が、人が神様にお祈りをしているように見えるため、「神様のお使い」とも呼ばれ大切にされています。4枚の黒い羽をピタッと合わせて葉っぱなどにとまります。田んぼの直ぐ上に「森さん」と呼ばれる祠(ほこら)があります。ここには地元の人々から親しまれている山の神様が祀られています。
生きものたちは同じ「種」の中でも色や形や大きさなど様々な個性を持っています。これは、それぞれが環境に合わせて生きていくために変化したもので、遺伝子によって代々伝えられてきたものです。これは、③「遺伝子の多様性」と呼ばれています。アサリの色や模様のちがいなどです。私たち「ヒト」の種の中にも、目や肌の色、体格や体質など異なった多様性があります。
現在、地球上には約175万種の生きものが確認されています(国立環境研究所)。ここで紹介したのは、生物多様性を構成する3つの多様性です。春編では①「生態系の多様性」、初夏編では②「種の多様性」、そして秋編では③「遺伝子の多様性」です。目に見えないくらいの小さな生きものたちも含めて、とてもたくさんの生きものたちが、私たちの生活を根底から支えてくれています。そうした生きものたちの多くの仲間が、生きる場所を失っています。それは、私たちの暮らしそのものが危機に晒されている事です。
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