約半世紀にわたり、 英国の日本食マーケットを牽引する 「タザキフーズ社」のあゆみと未来

2026/01/30

タザキフーズ社のこれまでのあゆみや未来の展望を訊いた

  •  2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録され、日本食は美味しさはもちろん、そのヘルシーさも評価されるなど、世界で広く親しまれるようになった。
     英国・ロンドンに拠点を置く日本食材卸会社のTazaki Foods Ltd.(以下、タザキフーズ社)は、さまざまな工夫を凝らしながら、約半世紀にわたって英国内での日本食の魅力や美味しさを伝えてきた。
     タザキフーズ社のこれまでのあゆみや未来の展望について、代表取締役の古川周広氏と、同社でSake Marketing Managerを担う西谷浩子氏に話を訊いた。


    古川社長と西谷氏

良質な日本食や日本の食材を、英国の家庭に届ける

  •  1978年創業のタザキフーズ社は英国ロンドンに本社を置く、英国最大規模の日本食材卸会社。英国各地の日本食レストランやスーパーなどに、米や寿司ネタ、日本酒や調味料といった日本食材を輸入・販売している。


    タザキフーズ社 本社

     もともと宝グループとは取引関係があり、宝酒造および米国宝酒造の「松竹梅」ブランドの清酒や「タカラ本みりん」などの調味料を取り扱い、2013年には宝グループの一員となりワンチームとなって日本食や和酒を届けていく体制を整えた。

    ――タザキフーズ社と古川社長のあゆみについて教えて下さい
    ―古川社長
     私は日本国内で英国を始めとした欧州の衣料品や骨董品などを輸入・販売を手がける会社を経営していました。妻が英国人ということもあり、ロンドンで暮らすことになったタイミングでタザキフーズ社を知り1990年に入社しました。
     当時の英国・ロンドンでは、日本食はまだ黎明期でした。私が入社した時のタザキフーズ社の売り上げも、現在の1/30以下であり  、日本食レストランは20~30軒ほどありましたが、英国在留の日本人向けのお店がほとんどで、私の使命は英国における販売ネットワークの拡大やレストラン、さらには大手スーパーなどとの取引を増やすことにより、卸事業を強化していくことでした。

    ――1990年代の英国でまだ浸透していなかった日本食が受け入れられたのはいつ頃ですか?
    ―古川社長
     日本食と言えば寿司のイメージが強いですが、現地では生魚を食べる習慣がなく敬遠されていた時代でした。1993年に日本の大手スーパーの英国進出や人気レストランの開店などが重なることで、寿司などを徐々に食べ始める人が増え、日本食がブームになりました。

    ――タザキフーズ社のオリジナルブランド『Yutaka』もその頃に誕生したのですね?
    ―古川社長
     そうです。当社は1978年の創業当初から、英国における日本食のパイオニアとして最高品質の日本産食材を取り扱ってきましたが、より手軽に日本の食材を楽しんでいただきたいという思いで開発したのが『Yutaka』ブランドです。


    発売初期のYutakaブランド

     それまでも天ぷらやラーメン、しゃぶしゃぶやすき焼きといった日本の食文化を届けていましたが、日本の味に興味を持ち始めた一般の方々向けに、手軽で本格的な日本食材をお届けすることを目指し、小売り向けの日本食材である『Yutaka』ブランドは誕生しました。
     最初に開発したのは1kgの寿司米でした。その後、現地の方とコミュニケーションを取り幅広くリサーチしながら、パッケージ・ラベルの分かりやすさやサイズの工夫を行い、利用しやすいサイズ感の500gにしたところ人気となりました。
     また、「手巻き寿司キット」もヒット商品となりました。すし酢に海苔、醤油、わさび、ガリ、説明書が箱詰めされた商品です。供給が間に合わず、社員総出で箱詰めを手伝ったほどです。


    現在でも人気の手巻き寿司キット

     うどんやヤキソバといった麺類も日本の方のみならず現地の方にも大変喜ばれ、現在では約190アイテム  となっています。Yutakaブランドの浸透とともに日本の味が英国の家庭にまで広がっていきました。


    現在のYutakaブランド

    ――1990年代に日本食が徐々に広がり、2000年代はさらに加速していったのでしょうか?
    ―古川社長
     1990年代後半には、日本食レストランは100軒規模にまで増加していました。日本酒も少しずつ楽しまれるようになり、宝酒造の『松竹梅』も日本食レストランで人気がありましたね。
     その頃には、現地の方々も多く日本食レストランに足を運ぶようになっていました。97年に日本食ブームのきっかけを創ったフュージョンレストラン『NOBU』の出店です。そして、2000年代に入ると『ZUMA』などスタイリッシュな高級居酒屋が台頭し、豪華な建物で寿司をはじめ多彩な日本食を堪能することができ、日本酒のラインアップも豊富な店が増えました。これを機に「日本食はファッショナブルだ」と捉えられるようになったのですね。

日本酒のために何かをしたい!という想いが原動力に

  •  ここから、現在タザキフーズ社でSake Marketing Managerを務める西谷氏に和酒についての話も訊いた。


    日本酒イベントで説明する西谷氏

    ――西谷さんはいつから英国で仕事をしているのですか?
    ―西谷氏
     私が英国・ロンドンに来たのは2013年で、それ以前は、ニューヨークを拠点にインテリアデザインに携わっていました。ニューヨーク時代は大きなプロジェクトが終わるとご褒美に日本食レストランで食事会を開いていたのですが、そのときに日本酒の美味しさに出逢いました。日本酒とは、こんなに美味しくて、魅力のあるものなのだと気づいたのです。
     日本酒や日本の魅力をもっと海外の方々に伝えたいと考えるようになり、ご縁があって渡英しました。当初は日中に営業で日本食レストランなどをまわり、夜にはサケソムリエとしてお客様やスタッフに日本酒の良さを伝えるべく仕事をしていました。


    渡英直後の西谷氏。お酒のイベントなどにも積極的に参加していた

    ――英国でサケソムリエとして活動し手応えはありましたか?
    ―西谷氏
     英国最大規模の日本文化フェスティバルであるHYPER JAPANなどで日本酒への注目度は高まっていましたが、現場レベルでは浸透と言うにはほど遠い印象でした。新しいものを楽しむ文化のある米国では日本酒が楽しまれていましたが、食事の際にはワインという根強いカルチャーのある英国では、日本酒はまだまだで悔しい思いをしました。
     ただ「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたり、アニメや旅行など日本に強い興味を持つ英国の方も増えたりすることで日本文化が浸透し始め、徐々にですが日本酒も選ばれるようになっていきました。

    ――西谷さんがタザキフーズ社に入社したきっかけとは?
    ―西谷氏
     現地でさまざまな活動をしていく中で出会ったのがタザキフーズ社で、日本酒を現地で拡大させていく担当としてお声がけいただいたのがきっかけです。
     とにかく“日本酒のために何かをしたい!”というパッションがありましたので、チャレンジするつもりで入社しました。
     入社後は営業活動に加えて、日本食レストランのスタッフへのトレーニングに注力しました。現地では、日本酒の味わいや精米歩合といたスペック情報の他、例えばどのような想いでそのお酒が造られているのか、どのような素材でできているのか、といったストーリーがとても大切にされています。我々よりもお店のスタッフの方が、お客様と直接コミュニケーションを取りますので、そのあたりを伝える取り組みを地道に重ねていきました。


    現地で日本酒についてのスタッフトレーニングをしている様子

日本文化や日本食の人気が、英国でさらに拡大

  • ――タザキフーズ社は2013年に宝グループに加わりました。その変化についてどのようにお考えですか?
    ―古川社長
     宝グループはグローバルなネットワークを有する大きな企業ですので、情報共有や調達面などタザキフーズ社だけでは不可能だったことも、可能になることが増えました。まずはそこが大きなメリットですね。
     また、現在ではグループでの連携も始まっています。例えば現在人気の魚介類などについては、ドイツのKagerer & Co. GmbH と連携し英国での販売を開始したり、フィンランドのAgrica Abとの連携により北欧地域へ販路を広げるなど、グループとなったメリットは非常に大きいと感じています。

    ―西谷氏
     『松竹梅白壁蔵<生酛純米>』をはじめ、宝酒造の日本酒は高いクオリティと価格のバランスがとても良いと感じていまして、サケソムリエとして活動する中でもその魅力を伝えていました。
     またグループの拠点が世界に広がっていますので、トレンド等の情報を交換して活かすことができる点は大きな強みだと思います。


    ペアリングディナーイベントでの『松竹梅白壁蔵<生酛純米>』と、
    ホタテとマスカルポーネのムースのマリアージュ

    ――グループとなった2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。日本食・和酒の人気に影響はありましたか?
    ―古川社長
     2つの大きな良い影響がありました。一つは、英国内で日本食・和食の認知が拡大したことです。ヘルシーといったイメージも広がり、日本食への興味は確実に広がるきっかけとなりました。
     そしてもう一つが、「和食」に対して、日本国内での意識の変化や政府の後押しがあったことです。日本国内でも食品の安全管理を目的とした国際基準であるEU HACCPへの理解が浸透し、日本食に携わる企業・自治体・生産者などすべての方々の意識が世界に向けられるものに変化し、日本食材を供給する我々にとってはさらに活動しやすい環境になりました。

    ――現在の英国における和酒・日本食のトレンドについてお聞かせください
    ―西谷氏
     2013年頃は、わかりやすい、華やかな味わいや香りの日本酒が人気でした。しかし最近は生酛純米といった、旨みや深みのある味わいが好まれています。日本酒のすそ野が広がってきていることを実感しています。

    ―古川社長
     近年では特に、アニメをはじめとした日本のカルチャーが若者に人気で、多くの英国の方が日本を訪れています。その意味で、特に若年層には日本の多様な魅力が受け入れられているように思います。
     また英国は、National Health Serviceという、医療費が基本的に無料である制度もあり、国が率先して健康の重要性を訴えています。その際に、ヘルシーなイメージのある日本食は選ばれるようになっていますね。日本の身近なメニューが、現地でも親しまれています。

    ――英国の日本食市場で特徴的なメニューはありますか? 
    ―古川社長
     特徴的なのはカツカレーです。もともと英国は歴史的にインド料理が国民食レベルで浸透しており、カレー文化が根付いています。また諸説ありますが、明治初期に日本海軍は、英国海軍が採用していたカレー味のシチューを参考に、とろみをつけた「海軍カレー」を開発し、これが日本全国に広まったと言われています。そのルーツから、日本のカレーは英国人にとっても懐かしい味わいとして受け入れられています。英国で人気の日本食レストランチェーン「Wagamama」がメニューにカツカレーを取り入れ、それが英国人に受け入れられたことで、カツカレーが人気の日本食となっています。


    Yutakaブランドでもカツカレー関連商品は人気  

ワンチームとなって日本の美味しさを世界へ

  • ――最近の新しい取り組みについてお聞かせください
    ―古川社長
     現在、タザキ・キャッシュ&キャリーという、日本と東洋の食材を取り扱う新しいコンセプトの小売店を運営しています。
     ここでは一般のお客様のほか、レストランを営む方もお越しいただきます。高品質な日本食材の取り揃えをさらに強化していくだけでなく、現在は鮮魚の取り扱いに力を入れています。そのために技術と知見を有する専門スタッフを配置して、日本食の美味しさを支える、鮮度と質の高い鮮魚を提供できるようにしています。こうした取り組みを通じて、より多彩な美味しさを皆さまにお届けして行けたらと考えています。


    タザキ・キャッシュ&キャリー

    ―西谷氏
     イベントにも力を入れています。2025年に行われたHYPER JAPANの中で開催される日本酒のプロモーションイベントSAKE EXPERIENCEや、日本酒・焼酎など「日本の酒類」に特化した試飲イベントDrink Japanなど、多彩なイベントに出展し和酒の魅力を伝えています。
     今年開催のSAKE EXPERIENCEでは、来場者が投票する3つの賞があったのですが、その内の2つの賞でタザキフーズ社が取り扱っているお酒が受賞しました。「食事に合わせやすい」お酒として受賞したのはスパークリング日本酒『澪』で、非常に嬉しい出来事でした。

    ――最後に今後の展望についてお聞かせください
    ―古川社長
     UAEやクウェートなどの中東エリアや、フィンランドをはじめとした北欧エリアにおいて、日本食の注目度が高まっており、キッチンカーでの寿司提供の際でも、行列ができるほどです。


    Yutakaの寿司バー・キッチンカーに人々が列をつくる北欧での野外イベント

     また、ロンドンの高級ホテルには必ず日本食レストランが入るなど、高級市場における日本食もさらに不可欠になってきています。
     タザキフーズ社は、うどんやカレーといった身近な食事から、ハイエンドなニーズに応えるところまで、あらゆる場面で日本食を支える存在になっていきます。倉庫や物流といった部分もさらに効率化して、新鮮で美味しい食をこれからも世界に届けていきます。

    ―西谷氏
     これからも世界に日本酒や日本の魅力を届けることに、全力で取り組んで行きます。ロンドンにおいては、日本食レストランだけでなくフレンチ、スパニッシュ、イタリアン…など、他国の料理にも日本酒を合わせていただけるように頑張りたいです。日本酒をもっともっと伝えていけるように、今後もベストを尽くします。


     タザキフーズ社はワンチームとなって、これからも世界各地へ、日本食や和酒の美味しさと魅力を届けていく。