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2019.03.27

タコと日本人

タコ焼きなどでおなじみのタコ。日本ではとても身近な存在ですが、それもそのはず。日本は世界一のタコ消費国です。実は日本人とタコの関係はとても古く、大阪府にある弥生時代の遺跡からは、タコ漁に使われた最古のタコ壺が出土しています。それから2000年。タコの習性を利用したタコ壺漁は、今も続いています。
日本人との縁も深いタコは、いったいどんな生き物なのでしょうか。大阪市立自然史博物館外来研究員・友の会会長の鍋島靖信さんにお話を伺いました。

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大きなものは体長1メートルにもなるタコ。ここではマダコの一生について聞きました。

タコ(マダコ)の一生

タコの一生は1年程度、長くても1年半くらいです。
産卵期は5、6月から10月くらいまでで、メスのタコが一生に産卵するのは1回だけです。交接という方法でカプセルに入った精子を受け取った母ダコは、タコ壺などの巣の中で産卵します。
産卵した卵は母ダコが口のまわりの吸盤を使って丁寧に撚りあわせ、巣の天井から吊るしていきます。そうして吊り下げた卵に、母ダコは水をかけて酸素を送り続け、孵化するまで飲まず食わずで世話をします。約1か月後、卵が孵化すると母ダコはその日のうちに死んでしまいます。メスはこうして子育てを終えるとすぐに死にますが、オスは冬まで生きていることもあります。
孵化した稚ダコはそれぞれの腕の吸盤数が15個になると、海底で生活するようになります。浅場の貝殻の下や石ころの下に隠れ、丈夫なくちばしとヤスリ状の歯舌(しぜつ)を使って甲殻類や魚をどんどん食べて急速に成長します。タコの一生は1年ほどですが、重さ4、5キロ、体長1メートル級のタコが水揚げされるのは、この大食漢のためなのです。

  • imageタコが交接する様子。交接腕を延ばしている左側のタコがオス
  • image巣の天井から吊るされている、タコの卵
  • image生まれたばかりの赤ちゃんタコの姿
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タコはとても頭がよいそうですが、どんな特徴があるのでしょうか。

記憶力抜群! 人も見分ける賢いタコ

見てのとおり、身体の中で頭が大きいタコは脳みそも大きめ。そのため記憶力も、なかなかなものです。たとえば蓋付きの瓶にエビなどの好物を入れ、近くに置いてやったとします。しばらくすると腕を巧みに使って蓋を回し開け、エビを取り出します。1回目は少し時間がかかりますが、2回目からは瓶を置いてやると、すぐに蓋を開けてエビを取り出せるようになります。
また、人間と同じレンズ構造の瞳を持つタコの目は、高性能で色んなものがよく見えています。水族館でタコ飼育すると、エサをやる人をちゃんと覚えます。エサやりに来た飼育員の方を見つけると、寄ってきて水を飛ばし、「エサちょうだい!」とさかんにアピールしてきます。

図瞳の大きさが違うのが、わかるかな
図
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頭がよいタコを獲るため、日本人が考え出したのがタコ壺です。 どうしてタコはタコ壺に入ってしまうのでしょう? 続いてはタコの習性について聞いてみました。

タコは潔癖症 ~タコ壺漁~

もともと貝類から発達したタコは、進化の途中で貝殻を持たなくなりました。タコがタコ壺に好んで入る習性は、どうやら貝殻を持っていた頃の名残のようです。
そんなタコの習性をわかっているからこそできるタコ壺漁ですが、タコはとてもきれい好きでもあります。なぜきれい好きなのかは、腕にびっしり並んだ吸盤に理由があるようです。
タコは腕の吸盤を巧みに使ってエサを獲ります。吸盤が汚れるとくっつかなくなるため、常に手入れを欠かしません。吸盤は数日で汚れるため、脱皮を繰り返してきれいに保っています。
そんなタコの習性をよく知っている漁師さんたちは、一度タコ漁に使ったタコ壺は丁寧に洗って再利用します。汚れたタコ壺にタコは絶対入ってくれないし、タマゴを産み付けてくれないことを経験から知っているのです。

  • image貝類から発達したタコは、タコ壺などに入るのを好みます
  • image常に清潔に保たれている、タコの吸盤
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さまざまなことに使う腕の吸盤は、タコにとってはとても大事なものなのですね!
現在、タコを取り巻く環境はどうなっているのでしょうか。最後に聞いてみました。

海の環境とタコ

タコはちょっとした周囲の環境の変化で住処を移動することがあります。
時期によって水温が高すぎたり、塩分が低すぎたり、海水の酸素が少ない水が来たりすると別の場所に移動してしまいます。
また、なわばりをもって生活するので、自分より強いタコが来ると逃げ出しますし、タコを食べるハモやアナゴなどに襲われそうになると、住処をすてて違う場所に行きます。
大阪湾という限られたエリアでさえ、海域環境は常に変化しており、タコの漁獲量は年や場所により一定ではありません。
今後も地球温暖化に伴う海水温の上昇や、毒性の強いプランクトンの増加など、今まで以上に海の環境変化がタコの生息域に影響を及ぼすことも考えられます。そこで近年は稚ダコをはじめ海の資源保護のため、漁獲サイズや漁具の制限、産卵期を禁漁にするなどの配慮をした漁業が進められています。
気候や自然環境の変化を止めることは難しいですが、身近な海にも多彩な生き物がいることを知ってもらう活動を進めることも、より多くの人が海や海の環境の変化に気づくきっかけとなると思っています。

プロフィール

鍋島 靖信さん

大阪市立自然史博物館外来研究員・友の会会長。
昭和28年生まれ、三重大学水産学部卒。大阪府立水産試験場で漁業・生物・環境を担当した。
博物館、自然大学、マスコミ、各種団体自然観察会などで、大阪湾の生き物について解説している。

大阪市立自然史博物館外来研究員・友の会会長 鍋島 靖信さん

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