2025.01.17
琵琶湖の人為的水位低下がホンモロコ卵の生残に与える影響の解明
米田 一紀
タカラ・ハーモニストファンドが、米田さんの「琵琶湖の人為的水位低下がホンモロコ卵の生残に与える影響の解明」に助成したのは、2024年のこと。ホンモロコは、琵琶湖固有種の小型コイ科魚種です。知る人ぞ知る美味しい魚ということもあり、琵琶湖漁業における主要な漁獲対象とされています。しかし、1995年以降、ホンモロコの漁獲量は急速に減少してしまいました。米田さんは、ホンモロコの漁獲量減少の原因を解明するために、稚魚の「耳石」という組織を分析し、その生態を研究しています。
ここでは、そんな研究や調査の一部をご紹介します。
琵琶湖
琵琶湖固有種「ホンモロコ」
限られた時間の中での研究活動
現在、琵琶湖博物館で働いている米田さんは、以前は水産試験場で調査研究をしていたそうです。そのころから、淡水魚の研究を始め、9年間研究を続けています。琵琶湖博物館では、博物館の運営と研究の業務を両立しているため、研究の時間は限られているとのこと。
米田さんが実際に行っている研究の一部を見せてもらいました。魚の頭にある耳石をひとつずつ取り出し、プレパラートに並べて顕微鏡で観察していきます。耳石には1日に1本増える、輪紋という円周状の線があるので、この線の数を数えるとその稚魚が生まれてから何日経ったかがわかるそうです。耳石ひとつのサイズは1ミリもないほどで、それを輪紋が見える向きに揃えて丁寧に並べていきます。

1年間で調査するホンモロコは200~300個体だそうです。作業の一部を見せていただきましたが、かなり細かい手作業で、何百個体も調査するには気の遠くなる作業だと感じました。この作業に慣れている米田さんでも、5日間で50個程度のプレパラートしかつくれないと言います。

研究の成果
耳石を観察し、何百もの個体を研究することで、琵琶湖に生息するホンモロコの生態の一部を明らかにすることができます。その生態が把握できれば、漁獲量が減少してしまった原因解明に向けた大きな手掛かりとなります。このように、生態の調査に耳石の分析を用いる手法は他の魚種でも使われますが、淡水魚の生態調査に使われることはこれまで多くありませんでした。そのため、淡水魚の一種であるホンモロコを対象とした米田さんの研究の成果は、生存・生育に関する定量的な評価手法の確立にもつながり、コイ科全般の生態把握にも応用できると期待されています。
淡水魚は生息域が限られており、環境変化や人間活動の影響を受けやすいため、多くの種が絶滅の危機に瀕しています。その生態については未解明な部分も多いですが、この研究は今後の生態学に新たな知見を提供する重要なものだと感じました。
絶滅危惧種と生態系の関係は?
ホンモロコは、絶滅危惧IA類という最も絶滅に近い種に指定されています。ホンモロコは産卵時に、水面の±3㎝に卵を産み付けるのが特徴で、水面上に浮遊しない木の根や岩に卵が見つかるそう。そのため、梅雨にかけて水位を調整する琵琶湖では、水面が低下すると卵が干上がってしまい、ホンモロコが孵化できなかったことが漁獲量減少の原因の一つだと米田さんは言います。ホンモロコが絶滅してしまうと、琵琶湖やその周辺の生態系バランスが崩れてしまう恐れがあります。それが、ゆくゆくは我々人間を取り巻く環境にも影響を及ぼしてしまうことも教えていただきました。

(滋賀県立琵琶湖博物館より写真提供)
取材を終えて
研究内容や分析手法を教えていただき、作業が非常に細かく、ひとつの結果を出すだけでも膨大な時間とデータが必要であることがわかりました。また、ホンモロコという一つの魚を通して、琵琶湖の環境や生態系全体のバランスが保たれていることの重要さを改めて認識しました。
米田さんは、淡水魚の一種であるホンモロコの研究から、他の淡水魚への耳石研究の応用を目指しています。
琵琶湖だけでなく、他の淡水域やさらに広範な地域でも、環境整備や生物保全のきっかけになるといいですね。