1985年設立 タカラ・ハーモニストファンド助成先の自然保護活動

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2024.01.31

カワノリの生育条件を調べ、消えゆく記憶を記録する

山口 晋一

清流でとれるカワノリは、川の環境変化で生育量が減り、今では絶滅危惧種のII類に指定されています。山県市でも、かつては特産品として皇室に献上されたり博覧会に出品されていましたが、生育場所の周辺で鉱山開発が行われ、生息数が大幅に減少してしまいました。
山口さんはカワノリのかつての分布域や食文化などの生活との密着度を調査することで、カワノリの保全と、そこに住む人々や自然の良さを伝えていく活動に努めています。
ここでは、そんな活動の一部を紹介します。

主な活動内容

①カワノリの生育に影響を与える要因の調査
②カワノリの生息範囲の拡大
③カワノリと暮らしに関する聞き取り調査
④カワノリの持続的活用
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タカラ・ハーモニストファンドが、山口晋一さんの「カワノリの生育条件を調べ、消えゆく記憶を記録する活動」に助成したのは、2021年のこと。
岐阜県山県市の集落支援員として2013年から活動する山口さんは、レストラン経営からゲストハウス運営、山県市の重要無形文化財である北山雨乞い太鼓・雨乞い踊り保存会の会長まで多岐にわたって精力的に活動されています。
今回は数ある活動の中から、地域の特産品だった「カワノリの保全活動」に実際に参加して、山口さんからお話を伺いました。

岐阜県の清流の源流域でとれる「カワノリ」の保全活動に参加

円原ブルーとも呼ばれる、透明感あふれる円原川の清流の水で育つ「カワノリ」の保全活動に10月16日(月)に参加しました。
岐阜県の街中から山あいを流れる清流「円原川」を眺めつつバスで1時間ほどで円原集落につきました。

image街中からわずか1時間ほどで広がる美しい自然の原風景

前日は山口さんが経営するゲストハウス古民家「水音」に宿泊し、川のせせらぎで目を覚ましました。
この日はまずカワノリが種子を形成しているかを観察するため、山口さんと共同活動者である下本さんと一緒に円原川の上流へ。
2人は“カワノリを保全することでこの地域の文化を残し、人と人との繋がりを守っていきたい”と2019年から、地域の方にカワノリのことを教えてもらったり、論文を読んだり研究者の方にアドバイスをもらいながら活動を行っているとのことでした。

  • image山口さんが経営する古民家「水音」。
    円原川のほとりにたたずむ。
  • image直接川に入って、岩に張り付くカワノリを採取する。

採取したカワノリを持って、カワノリの保全活動に協力してくださっている三津原さんと情報交換。
2023年は2022年の2倍もノリが収穫できたとのことで活動は順調に進んでいそうですが、大雨によりカワノリが流れてしまうこともあり、収量は自然環境次第とのこと。

  • image採取したカワノリ。
  • image左から、下本さん・山口さん・三津原さん

カワノリのタネ(接合子)

採取してきたカワノリを顕微鏡で観察して、タネを出しているか確認。
学術研究によると、顕微鏡で観察した時にモザイク状になっていればタネを出しているとのことで、ちょうどモザイク状の様子を見ることができました。
使っている顕微鏡は廃校になった近くの小学校のもので、反射鏡の代わりにスマホのライトを使うなど工夫して観察する様子はたくましさを感じました。

image観察用のプレパラートを作成して、カワノリがタネを形成しているか確認。

種苗を植え付けるためにカワノリを採取

カワノリがタネを形成していることが確認できたので、他の岩に塗る種苗液用にカワノリを採取。

この後の作業としては、カワノリが自生している岩のコケを落として種苗液を塗ることで、カワノリが自生するのを待つとのこと。
カワノリの増殖方法は、5年間色々と試してきたものの、この方法がもっとも成功率が高いことがわかったそうです。

増殖に成功して安定的に採れる見込みがたったことで、ふるさと納税の返礼品に登録。また、ここ1-2年で、新聞やテレビ、雑誌などのメデイアで取り上げられる機会が増えたとのこと。

かつて山県市の特産物だった「カワノリ」を再び地域の特産品にすべく活動するお二人を一日取材しましたが、カワノリを通じて円原の人を、そして円原に来る人も元気にしたいという思いが活動の原動力になっているんだと強く感じました。

「カワノリの保全活動」に参加して

岐阜駅からバスで進むこと1時間、どんどん山あいに入っていき、綺麗な川があるなと眺めているとそれが円原川でした。
カワノリってどれだろうと思いつつ円原川を見てみてもカワノリの姿はわからず、2人と一緒に川に入って初めてカワノリの形や手触りを知ることができました。
カワノリは渓流の岩やコンクリートブロックに付着するように生えていましたが、川の流れは激しく、水も冷たく日々の活動は大変だろうなと感じました。
そんな中でも地域の方と協力しながら、明るく活動を進めるお二人の様子を見て地域活性化の意味を改めて考えるきっかけになりました。カワノリは今では絶滅危惧種に指定されるほど希少なものですが、元々は山県市の地域の特産品として献上されるほど身近なものでした。当時の食文化や暮らしを地域の方々と思い出しながら、その文化の保全と地域への還元を目的に活動を進めるこの活動はまさしく地域活性化であると感じました。
地方の過疎化が深刻な問題になる中、地域のかつての想い出・文化から今を活性化していくというモデルは他の地方でも十分参考になる事例なのではないかと感じました。
カワノリの魅力発信方法としてカワノリスイーツを作ったり、活動場所の近くに今流行のテントサウナができたりと、円原にも新しい萌芽が芽生えています。
この萌芽がこれからすくすくと育っていくのが楽しみです。

プロフィール

山口 晋一さん

山県市生まれ。就職で一時山県市を離れたのち、Uターンして山県市の集落支援員となる。
支援員としての活動中、円原川のほとりに住む三津原さんの話で「カワノリ」の存在を知る。
過疎化、高齢化が進む地域に産業をつくりたいと思い、カワノリの特産品化を目指す。
当初は手探り状態だったが、2019年から、協力者の下本英津子さんとともに本格的にカワノリの調査、保護、持続的活用に取り組み始める。
2022年には通販サイトでのカワノリ販売を実現。
2023年、カワノリ食文化をもっと多くの人に知ってもらおうと、カワノリカンパニーという任意団体を設立。
主にインスタグラムを通して、カワノリの魅力を発信中。

imageお話を伺った山口晋一さん(右)と下本英津子さん(左)