1985年設立 タカラ・ハーモニストファンド助成先の自然保護活動

「ずっと続く、自然への恩返し」

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2017.03.29

身近な植物・タンポポを調査して、自然に親しむきっかけに

タンポポ調査・西日本実行委員会

imageimage2017年2月に大阪市にあるタンポポ調査・西日本実行委員会を訪問。
事務局長の木村進さんに、タンポポ調査について、
その具体的な活動と調査に対する思いについて伺いました。

自然に関心を持ってもらうきっかけとして始まった「タンポポ調査」

image調査をしている様子の写真

春になると黄色の可愛らしい花を咲かせるタンポポ。誰でも知っているこの身近な植物・タンポポの生態を調べ、環境の変化などを調査しているのが『タンポポ調査・西日本実行委員会』です。
もともとは1973年に京都大学の堀田満先生が始めたものですが、現在、実行委員会の事務局となっている「公益社団法人 大阪自然環境保全協会」の前身となる団体が、1974年に大阪で大規模なタンポポ調査を実施しました。
以来、ずっと調査は続けられ、今年でなんと40周年を迎えました。
「タンポポ調査ですが、誰もが好感を持っている身近な『タンポポ』を調べることで、色々な人にもっともっと自然に関心を持ってもらいたいという思いがあって始まったんですよ」と木村さん。
淡々と話される木村さんですが、40年の長きもの間、ずっとタンポポを見つめ続けてこられた、タンポポに対する愛情が話の端々に垣間見られました。

タンポポ調査を通して見えてくること

imageエリアによっては黄色と白色のタンポポが 混ざったタンポポも咲いているみたい。びっくり!image黄色、白、白と黄色が混ざったタンポポ の3種類のタンポポ

タンポポ調査は5年に1度、2年かけて「予備調査」と「本調査」が実施されます。
どの種類のタンポポがどこに咲いているかを調べ、集まった資料を集計し、調査報告書を作成します。
それらはホームページで公開されるほか報告会も開催されています。
本来関西では、在来種であるカンサイタンポポが主流でした。
1970年代から外来種のセイヨウタンポポやアカタンポポが見られるようになり、1990年には在来種と外来種の雑種が初めて確認されました。

調査結果を地図に表した分布図を見比べると、都市化が進行したエリアには外来種のセイヨウタンポポが増え、人の手があまり入っていない里山には在来種のカンサイタンポポが多く分布するなど、環境の変化が一目でわかります。
「高度経済成長によって都市化が進んでいた一時は、外来種であるセイヨウタンポポが多い地域がどんどん増えていったのですが2005年を境に開発が落ち着いて、在来種のカンサイタンポポの数がまた増えてきてきたんですよ。長く調査を続けているとね、そうした変遷が目に見えて分かるんです。調査を通じて自然がまた本来の姿に戻りつつあるということが分かるのは非常に嬉しいものですよ」。

図外来種の多い地域(赤色)が拡大している様子がわかる
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周りにはいつも同じ種類のタンポポが咲いているとばかり思っていたけれど、実は在来種から外来種に変わっていたなんて、気が付かなかった…。

大阪から西日本へ…。調査エリアの拡大

大阪で始まった調査は続けるうちにエリアを広げ、前回2015年の調査では近畿(三重県を含む)・四国・中国地方と福岡県・佐賀県・福井県の19府県で実施され、7万件近いデータが集まりました。
「調査方法は、用紙にタンポポを見つけた場所や種類などを記入してもらって、花はティッシュに包んで書類と一緒に郵送していただければ終わりです。もちろん各地の事務局まで持ってきていただいてもいいですよ。私は高校教師でもあるのですが、長年教え子にも取り組んでもらっています。中には親子2代で調査に参加してくれた人もいるんですよ(笑)。これは嬉しかったですね」。
調査には学校関係のほか、大学・博物館などの専門家、NPO団体、市民の人も多く参加しています。「この調査は市民参加型で、大勢の人の協力が欠かせないんです。だから、協力者を募るためチラシや調査用紙をたくさん用意して各所に配布しています」。タカラ・ハーモニストファンドの助成金はこのチラシの制作の他、花粉を1000倍に拡大して見るマイクロデジタルスコープの導入に活用されたとのことです。
「実は、近年、雑種のタンポポが多様化していて種類を見極めるのが難しくなっていたのですが、マイクロデジタルスコープを導入できたおかげで、誰でも簡単に観察できるようになりました。花粉観察の効率が上がって助かっています」。

  • imageチラシ見本
  • image集まった調査用紙
    エリアの拡大に伴い調査用紙も統一
  • image参加者が送ってくれたタンポポの花。
    すべてナンバリングされ大切に保管されています
  • image購入したデジタルマイクロスコープで花粉を観察

市民と専門家の架け橋となる存在をめざして

もともとは多くの人に環境や自然への関心を高めてほしいという思いから始まったタンポポ調査ですが、調査エリアを拡大したことで、寄せられる情報量も増え、学術的にも価値の高い調査へと成長してきました。雑種の発見のほか、謎に包まれていた希少種ツクシタンポポの生態が明らかになって、レッドデータブックが見直されるなど、蓄積された調査結果からはさまざまな成果が上がっています。
「続けるほどに新たな発見や課題が出てきて興味が尽きないんですよ。私は高校教師という立場でもあるので、研究者というより一般の方と専門家の間に立ち、両者をつなぐ者としてタンポポに関心を持ってもらって、これからも調査が継続できるよう取り組んでいきたいですね」。

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短い時間でしたが、木村さんのお話を聞かせていただいて、タンポポの奥深さを少しだけ知ることができました。道端に咲いているタンポポは、ただただ「春」という季節を知らせてくれる花だと思っていましたが、実は環境の変化をも知らせてくれる花でした。タンポポがそこに咲いているのには理由があるのです。あなたの足元に咲くタンポポは在来種でしょうか、外来種でしょうか。そして何色の花でしょうか。
さあ、次回、調査が実施されるのは2019、2020年。皆さんもタンポポを通じ、身の回りの自然環境や暮らしの変化に目を向けて、このタンポポ調査に参加してみませんか。

タンポポ図鑑 ~西日本に分布するタンポポ~

  • imageキビシロタンポポ
  • imageセイタカタンポポ
  • imageトウカイタンポポ
  • imageオキタンポポ
  • imageヤマザトタンポポ
  • imageクシバタンポポ
image外来種 セイヨウタンポポ

プロフィール

タンポポ調査・西日本実行委員会事務局長 木村 進さん

大学四年生のときにタンポポ調査に関わり、卒論もタンポポをテーマに選ぶ。大学院卒業後は環境教育に取り組みたいと高校教師として働きながら、「公益社団法人 大阪自然環境保全協会」の理事として活動。『タンポポ調査・西日本実行委員会』が発足してからは、タンポポ調査の実施に取り組む。市民を対象とした自然環境保全のための講義やフィールド実習も行う。

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