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神経成長因子の生体内産生を促進する食用植物成分を発見 2001年7月17日


宝酒造株式会社(社長:大宮 久)のバイオ事業部門は、明日葉(あしたば)、ホップ食用菊の花ガジュツ(紫ウコン)などの食用植物の成分が、現代社会において問題になっているアルツハイマー型痴呆症や糖尿病が原因の末梢神経障害などの予防と治療に効果が期待される、神経成長因子(Nerve Growth Factor : NGFと略)の生体内での産生を顕著に増強することを発見しました。 これらの成果は和漢医薬学会(平成13年8月18日、富山)、日本生薬学会(平成13年9月7日、金沢)、日本生化学会(平成13年10月25日、京都)で発表される予定です。

神経成長因子(NGF)とは

 神経細胞の誕生を促す作用、神経細胞の生存を維持する作用、脳の損傷時に修復する作用、脳神経の機能を回復し脳の老化を防止する作用など神経細胞の生と死に密接に関わるタンパク質です。従って、アルツハイマー型痴呆症や糖尿病合併症の神経障害などの予防・治療に有効であると考えられています。しかし、NGFは分子量が大きく(118アミノ酸残基からなる分子量13,259のサブユニットが2つ非共有結合した2量体)血液脳関門を通過できないため、脳への移行は困難です。そのため世界中で、血液脳関門を通過できるNGF産生を増強する物質の探索が行われています。
 これまでにも様々な低分子活性物質が発見されましたが、細胞毒性の強いものも多く、また有効濃度の幅が非常に狭いため、実用化には至っていません。

NGFの産生を増強する食用植物

マウス繊維芽細胞に食用植物からの抽出液を添加して培養し、細胞が培地中に産生したNGF濃度を測定することによって、NGF産生増強活性の強い食用植物の探索を行いました。この評価系において、明日葉(あしたば)、ホップ、食用菊の花、ガジュツ(紫ウコン)などに強いNGF産生増強活性があることを発見しました。特に明日葉は活性が強く、15〜20倍のNGF産生を増強しました。ホップ、食用菊、ガジュツなども5〜10倍のNGF産生を増強しました。

新規化合物3種を含む8種のNGF産生増強活性物質を食用植物から発見

 NGF産生増強活性があった植物の抽出液より活性物質の単離を行い、それらの化学構造を決定しました。その結果、明日葉からは2種類の新規化合物を含む4種類のクマリン化合物と1種類の新規クロマン化合物を発見しました。またホップからはカルコンの1種であるキサントフモールを、食用菊の花からは2種類のセスキテルペノイドをNGF産生増強物質として発見しました。
一方、ホップを含有するビールでは、製造中にキサントフモールのほとんどがイソキサントフモールに変換されており、イソキサントフモールのNGF産生増強活性は非常に微弱なものでした。
今回食用植物から発見したNGF産生増強物質は、その有効濃度幅も非常に広く、これまでのNGF産生増強物質より優れています。

経口摂取でNGFの産生増強

 さらに、ラットを用いてホップから精製したキサントフモールと明日葉の乾燥粉末の経口投与動物実験による評価を行いました。1日1回3mg/kgのキサントフモールを4日間経口で投与したラットでは、投与していないラットと比較して顎下腺でのNGF含量は80倍以上増加していました。また脳では20%程度増加していました。さらに、腹腔投与の実験も行いました。その結果、1日1回3mg/kgのキサントフモールを3日間腹腔内投与したラットでは、投与していないラットと比較して腓腹筋(ひふくきん)で約20%増加していました。
 一方、明日葉は乾燥粉末を餌に1%(750mg/kg/day換算の投与量)混入した状態で4日間、経口投与しました。その結果、投与していないラットと比較して、腓腹筋のNGF産生量が約20%増強されました。
以上の結果より、明日葉をはじめとしたNGF産生増強活性を有する植物を食用に供することにより、生体内のNGFの産生が増強され、痴呆、末梢紳経障害を予防できる可能性が示唆されました。特に、経口投与による脳でのNGF産生増強は、非常に重要な結果であると考えられます。

今後の医食品開発への取り組み

 高齢化社会における生活向上と医療費削減は大きな問題です。特に、健康寿命の延長は重要な課題です。宝バイオでは、医食同源の考えから健康維持機能を持った食品(医食品)を開発することを目的として、機能性海藻多糖類等を中心とした医食品の研究をここ12年間続けてきています。
これまでに、昆布フコイダンが、肝細胞成長因子(HGF)の産生増強作用、免疫賦活作用、抗ガン作用等を有することを発見しました。また、寒天アガロオリゴ糖が、抗ガン作用、抗炎症作用、発ガン予防効果等を有することなどの生理活性を発見してきました。さらに、食用植物フラボノイドのカテキンが、環境ホルモンから身をまもる作用があることも発見しました。しかし、健康寿命を延長させるために最も重要な問題の一つに、アルツハイマー型痴呆症等の神経障害があります。
 バイオ事業部門では、様々な神経障害の予防と治療に有効な神経成長因子(NGF)の産生増強活性をもつ食品の探索を進め、今回の発見に至りました。
 今後、このような研究成果をもとに痴呆や末梢神経の障害を予防あるいは治療する効果が期待される医食品の開発、販売を行う予定です。さらに、将来医薬品の開発にもつなげていきたいと考えています。




<用語説明>

明日葉

セリ科の大型多年草で、学名をAngelica keiskei という。伊豆諸島を中心とした太平洋岸に自生する日本固有の植物である。関東地方では食用に供され、特に八丈島では不老長寿の霊薬として広く用いられている。民間薬としても用いられた経緯があり、その効用には、便秘、利尿、高血圧、貧血、疲労回復、食欲増進、精力増強などがある。さらに、黄色汁が虫刺されや水虫、皮膚のかゆみに有効とされている。

ホップ

ヨーロッパ原産のクワ科多年草(学名:Humulus luplus)の雌花(毬花)のことを言う。ビールの苦味、香りづけに用いられることで有名であり、別名『ビールの花』とも呼ばれる。原産地ヨーロッパでは民間薬としても用いられており、その効用は、鎮静効果、入眠・安眠効果、食欲増進、健胃作用、利尿作用などがある。

食用菊

一般のキク科の食用植物としては、葉を食するよもぎや春菊が有名であるが、食用菊は、花を食べる野菜であり、食感、苦味の軽減などのために品種改良も行われている。さらに、食用菊は、古くから漢方薬に利用された歴史があり、その効用としては、解熱作用、頭痛やめまい症状緩和などの効果があるとされている。

ガジュツ

マレーシア、インド、ヒマラヤを原産とするショウガ科の多年生草本で、学名をCurcuma zedoariaという。日本では、屋久島で栽培されている。主根茎をガジュツと称し、芳香性健胃作用、抗菌作用が知られている。

カルコン

フラボノイドの一種で、主に黄色い花に含まれる黄色色素。食用できる植物での分布は非常に限られており、ホップにはキサントフモールという特有のカルコンが知られている。カルコン類の生理活性としては、抗癌作用、抗酸化作用、抗菌作用などが報告されている。

クマリン

クマリンは高等植物に広く存在し、特に明日葉などのセリ科植物に多く含まれる化合物である。芳香を持つものが多く、抗菌作用などの生理活性を有するものもある。

クロマン

クロマンはクマリンに類似した構造を有するが、ビタミンEと同じ基本骨格であることで知られる。植物界での分布や生理活性については不明の部分が多い。

セスキテルペノイド

炭素15個を基本骨格とする化合物で、下等植物から高等植物まで広範囲に存在するほか、微生物界や動物界にも存在する。その構造は実に多様であり現在1000以上の化合物が知られている。生理活性も多様であり、香料や医薬品に用いられるものも多い。

繊維芽細胞

結合織形成細胞ともいう。動物固体内のほとんどすべての組織中に分散して存在する細胞で、臓器の形態形成に重要な役割を果たす結合織細胞の中核をなす。組織に外傷が加えられたり、内因性の傷害によって臓器の実質細胞が失われた場合、この細胞が分裂増殖をして欠落した部分を修復する。樹立された細胞株でNGF産生が確認されている細胞は非常に少ないが、今回の実験では、NGFの誘導実験によく用いられているマウス繊維芽細胞株のL−M細胞を用いた。

アルツハイマー型痴呆症

ドイツのアルツハイマーが症例報告した初老期(65歳まで)に発症する痴呆症をアルツハイマー病と呼ぶ。初老期以降に発症する痴呆症も症状、病理学的にも区別する根拠に乏しいため、まとめてアルツハイマー型痴呆症として扱われる。初期症状は、物忘れ、記銘力低下が起こり、次第に、時間的、空間的見当識障害から、全体痴呆へと進み、下肢に屈曲対麻痺を起こして最終的に合併症などで死亡する。病理的には、脳全体の萎縮、変性した神経突起へのアミロイドの蓄積が見られる。特に有効な治療法は、現在のところ確立していない。

糖尿病性神経障害

糖尿病患者は血糖値が高いため、アルドスレダクターゼという酵素により血液中のグルコースがソルビトールへと変化される。この変換を起点として、糖の代謝が次々と起こり、その代謝が原因で神経障害が生じると考えられている。このような糖尿病による神経障害を糖尿病性神経障害という。神経障害を併発している糖尿病患者で、血清中NGFの優位な低下が報告されている。

顎下腺

哺乳動物の三大唾液腺の一つ。大型の腺組織で、導管は口腔底に開口する。げっ歯類では、顎下腺に分泌顆粒を有する上皮細胞があり、神経成長因子(NGF)、上皮増殖因子(EGF)を含んでいる。

血液脳関門

脳血液関門ともいい、中枢神経機能の破綻をきたす血中物質(毒素、神経伝達物質など)の脳内移行を制限し、神経活動のエネルギーとなる栄養素を選択的に移送する機構をいう。脂溶性あるいは低分子ほど良く通過すると考えられている。

キサントフモール

フラボノイドの中のカルコンというグループの化合物であり、黄色で分子量は354である。ホップ特有のフラボノイドであり、ホップ1kgにおよそ1〜3g含まれる。
1957年に発見されたが、最近になってその生理活性などが研究され注目されている。その生理活性としては、ガン細胞の増殖抑制、抗変異原作用、抗酸化作用、抗高脂血症作用、骨分解抑制作用、抗菌・抗かび作用等が挙げられる。

イソキサントフモール

キサントフモールの構造異性体。ビールでは、製造工程と保存中にホップ由来のキサントフモールの大部分がこのイソキサントフモールに変換される。





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